「第87回:図書館の概念を広く使おう!」

越智 萌 OCHI Megumi

国際関係学部 准教授

【研究テーマ】
 
【専門分野】
 国際法学, 国際関係論
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インタビュー:学生ライブラリースタッフ 端山・井口

先生の研究テーマや研究分野について教えてください。

 研究テーマは中核犯罪の特別性、研究分野は国際刑事司法です。研究分野の国際刑事司法という分野自体は割と横断的で、国際法学と国際制度論、国際関係論、平和紛争論、心理学や組織論を融合したような分野です。その中でも私は、中核犯罪の法概念であったり、中核犯罪訴追のための国際的な制度について研究しています。中核犯罪とは、国際法において犯罪とされており、かつ国際社会全体が処罰に関心を持つような重大な犯罪です。ジェノサイド、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪が入ります。この4つの犯罪が、なぜ国際社会によって特別な扱いを受けているのかについて、手続的な制度や、被害の実態といった様々な観点から研究しています。 

学生の頃、先生はどのような学生でしたか。 

 講義よりも演習の方が好きな学生でした。今思い起こせば、自分で調べたり、まとめたりするような授業の方が好きで、1年生の頃から低回生向けのゼミのような授業によく取り組んでいました。私が所属していた学部は当時ゼミを複数個取ることができたので、私は、3回生の時に国際政治学のゼミと行政法のゼミを取り、4回生に入ってからは国際法のゼミを取りました。色々なゼミを体験し、最終的に国際法を選択しました。 

 それに加えて、サークル活動(軽音楽)やアルバイトなどの課外活動で、結構忙しく過ごしていたような学生でした。今もアルバイトなどの課外活動をしている学生はとても多いと思いますが、私が学生の時も、サークル活動やアルバイトに費やす時間は今の学生と同じぐらいだったのではないかと思います。講義がない時間は、ほぼサークル活動かアルバイトをするみたいな感じでした。 

国際法や行政法など色々なゼミをとられていたということですが、最終的に国際法を選び、専攻しようと思ったきっかけを教えてください。 

 もともと国際紛争、特に武力を伴う紛争や戦争と、それに巻き込まれる理不尽さ、不条理といったものに関心がありました。政治学と法学の両方のアプローチを経験した結果、自分の性格には法学的な思考が合うと思い、国際法学を選びました。なぜかというと、政治学は、価値観が多様な主体の間での利害の妥協点を目指していくような学問であると思うのですが、私はどちらかというと、外部に基準があって、それに照らして合っているか合ってないかというふうに議論するほうが向いてるなと思ったからです。そのときは、法学は答えがある学問だと思っていたということも理由の1つです(これは全くの誤解でした)。 

 また、国際刑事司法を研究テーマとして選択したのは2009年、私が修士課程に進むときでした。国際政治でも国際法でも、基本は国家という枠組みに主権(決定権)があります。しかし刑事司法は、国家主権の中で起きていることに対して、国際社会が国家の壁を突き抜けて直接アプローチをすることができます。そのようなことが、その国家主権によって構成されている国際社会で可能だということを知ったときは驚きましたし、2009年は日本が国際刑事裁判所(ICC)に加盟した2年後で、そのテーマについて日本全体が研究を始めた時だったので、これは今後すごく研究の可能性がある分野だと思い選びました。 

海外留学の経験についてお聞きしたいと思います。先生はオランダのライデン大学に留学されていらっしゃいますが、留学の経緯を教えてください。

 私は国際法に関する研究者になりたいと思ってはいたんですが、一方で、国際機関で働いて実務を経験してみたいという気持ちもありました。そのためには英語での法学の学位が欲しかったんです。ライデン大学の LL.M.(Master of Laws) は国際法を学べる大学の中でもトップに入るので、博士1年目の時に休学して行きました。  

海外の大学で英語で法律の授業を受けるというのは実際とても大変なことだと思うのですが、いかがでしたか?

 私が行ったのは国際法学のコースでその中でも国際刑事司法の専攻があるところだったので、日本語で前提知識は付けてあるし、普段から英語の論文を読んでいて割と語彙とか理論のホットな話題とかは分かっている状態で行ったので、新しいことを英語で1から学ぶというよりも既に知ってることを英語で学びなおすみたいなかたちで行きました。ですので、おそらく大丈夫だったのかなと思います。知識だけだったら同級生よりもいっぱい知っているということもあったと思います。英語で弁護士をしているけど、国際法のことは全然知らないっていうような同級生もいたので。だから海外の大学院への進学を考えている人で不安がある場合は、その分野のことを一通り日本語で勉強した上で行くといいかなと思います。日本の法学部だと日本の法律のことを勉強するので、海外の大学に行くと常識が違ったりすることもあると思うんですが、国際法はそれがないので、すんなり入りやすかったのかなと思います。例えばアメリカの大学に行くんだったら、アメリカの法制度とかを日本語で勉強してから行くとよく知ってるねみたいな感じになると思うんです。 

 日本ってすごい良いのが、日本語でいろんな国のことを勉強できるんですよ。これは、外国の制度や法について研究している研究者が日本語で(も)きちんと研究発信してきた成果だと思います。これができる国って英語圏以外ではそんなに多くありません。そういう意味では日本にいる間に色々世界のことを母語で知っておいて、プラスアルファ留学先で知識を付けてくるというのが良いように思います。 

大学時代にどのように図書館を利用していたのか教えてください。

 ゼミのディベート大会や模擬裁判、卒業論文の準備といった研究の方面をメインに図書館を使っていました。また、いわゆる一般図書がある図書館ではなく、法学部の図書館の書庫にずっといました。ちょうど私の学生時代は日本が国際刑事裁判所(ICC)に加盟して、たくさん論文が出てきてた時だったので、今出ている論文を全部読まなければならないと思い、ずっと書庫にいて関連する論文をコピーして読んでっていうことをしていました。利用頻度はまちまちだったのですが、課外活動やゼミ活動で研究をしなければならない時は、集中して利用していました。 

学生時代に影響を受けた本や学生にお薦めしたい本などがあれば教えてください。

 学生時代に影響を受けた本は正直ないのですが、私は論文を本当にたくさん読んだのと、新書を数えきれないくらいたくさん買ったり借りたりして読んだというのもあり、その中から1冊選ぶとしたら、自分のテーマとの関係で、多谷千香子さんの『民族浄化を裁く』という本です。国際刑事司法について書かれていたこと、そして著者の多谷さんは旧ユーゴスラビアの国際刑事法廷の裁判官を務めた方で、日本人女性で国際裁判官になれることに驚いたということもあって印象に残っています。  

 またもう1つ、影響を受けた本ではないのですが、「法律時報」という雑誌は毎月チェックしていました。私は外国語学部だったので法学部の教育は受けていないんですが、ゼミの先生が法学の先生で、今から法律を勉強して法学者になりたいんだったら、とりあえず法律時報を読めと指導を受けました。特に雑誌の後ろに最新の論文のリストが掲載されていて、それだけは絶対に見ていました。論文検索については当時からCiNiiはありましたけど、どうしてもチェックが漏れてしまうものもあり、法律時報で過去に遡って、自分の研究に関連のある論文をリストアップすることをしていました。  

 ちなみに私は今年から法律時報の12月号・学会回顧という特集号で、この1年間に出された論文のレビュー担当(国際法)を任されることになりました。学生の時に読んでいた雑誌に自分が関わっていること、ちょっと時間の流れを感じています。ぜひ出たら読んでみてください。 

 また、研究分野との関係で学生の皆さんにお薦めしたい本は3冊あります。マーサ・ミノウ『復讐と赦しのあいだ』、スティーブン・ピンカー『暴力の人類史』、それからフィリップ・サンズ『ニュルンベルク合流』です。3冊とも国際刑事司法とは何かといったことを知るのにとてもいい本だと思います。あと、気分転換には高野和明『ジェノサイド』(とても気分転換にはなりそうにないタイトルですが)をお薦めします。

今の学生の図書館の利用について、何か感じることがあれば教えてください。

 コロナ禍との関係で言うと、ある意味コロナのおかげもあって、学外アクセスからデータになっている文章を読む機会がすごく増えてると思うんですね。これからはもう紙だけじゃなくてどんどんデジタル化していくので、画面上で読むことに慣れる必要がありますよね。ですのでオンラインでも図書館を利用できるようになってほしいし、すでになっていってるなとは思います。図書館は”場所”としてすごくいいじゃないですか。1人で勉強する場所としてもいいし、友人とディスカッションすることもできますけど、図書館という物質的な場所にこだわらず、図書館という”概念”を広く利用していく方が良いのではないかなという風には思います。 

 また、私が今教えている学生たちは留学生がほとんどということもあり、オンラインやデジタルでの図書館利用が増えてきているなと感じます。例えば本学に入学してからずっと海外から授業を受けているという学生も結構います。そうなると、一番最初の大学との繋がりがVPN(Virtual Private Network)接続になります。VPNを接続してもらって、そこから、立命館のデータベースを使う指導をしていました。 

図書館のデータベースや図書館のサービスを利用していて、ここが良いと感じられる部分はありましたか?

 E-Bookも充実してますし、オンラインジャーナルへのアクセスもすごくいいと感じています。私が学生時代に書庫に籠ってやっていたことがオンラインで出来るようになってきて、よいなと思う面も多々あります。ただ、学習の最初はそれでいいと思うんですが、そこから次のステップに一歩進むにはアナログなこともやらなければならないと思います。つまり紙でしか残ってないものを書庫から探し出して読むということです。  

 ぜひ皆さんが自分でリサーチする際には実際の図書館の書庫の利用などもしてもらえたらなと思います。私も実際に学生を書庫に連れて行って書庫を触ったり動かしたりしてもらうことがあるんですが、そういう風に資料を実際に探しに行くみたいな経験もしてもらえたらいいなと思いますね。例えば先ほどの法律時報のリストであれば紙でしか(まだ)ないので、それは足を使わないと探せないですし、あとそのキーワード自体を知らなければ検索できないですよね。自分の知らないキーワードに出会うためには、時間をかけて雑多なものから探すということをしないと辿り着けないと思います。別に必ずしも足使って体使って探すべきって言ってるわけじゃなくて、そうしないと得られないものも「まだ」たくさんあるんだということですね。 

先生が学生に授業をされる際に気をつけていることがあれば教えてください。

 2つあります。1つは授業の内容が学生一人ひとりの将来と結びつくようにということです。将来というのは、学んだことがどう活かせるということではなくて、社会が今こう動いていてその中に今どのようなポスト(仕事)があるのかということを具体的に紹介するようにしています。例えば国際社会で働きたいと漠然と思っている学生に対して、AというポストもあるしBというポストもあるし、そこに行きたいんだったらこういうルートでこういうスキルをあげたらいいよ、といったような、具体的にどういう将来があるのかというのをなるべく例を挙げて紹介するようにしています。また、具体的なロールモデルの紹介もしていますね。 

 もう1つは、やはり学生が未来に希望が持てるようにしたいと思っています。私が教えている内容は犯罪や人権侵害、汚職といった割と大きくて政治的な社会問題になるので、一見私たち一人ひとりだと何も変えることはできなさそうにも思えるんですが、そこで絶望するのではなくて、大人たちが頑張ってここまで変わってきたし、今後も変わっていくんだよという風に希望が持てるようにすることは意識しています。 

コロナで先生の研究活動において、何か変化などありましたか?

 はい、ありました。当然対面での学会発表とか国際交流はめっきり減ってしまったので、海外に行く機会も減ったし、国内での学会もなくなったんですけど、その分オンライン開催の学会とか研究会がもう多分3倍・4倍ぐらいの量になりました。場所、時間構わず参加できるようになったので、研究会自体の参加頻度は増えました。それから国内でも小さな研究グループとかはZoomを使って研究会をやるので、月に2、3回研究会が入るようになってきて研究発表の機会も増えたし、打ち合わせも増えました。ただ、偶然の出会いというのはなくなりましたね。正直そういうところで色々チャンスを逃しているような気もするなとは思います。 

先生の感覚的には研究会が増えて入ってくる情報も増えて、研究環境的には良い方向に向かっているという感じですか? 

 自分の研究に関して言えば、必要なことを低コストかつ迅速にできるようになったので、すごく効率が上がったとは思います。ただそれも、さっき本を探す話でも言いましたが、自分が知っている人とか自分が知ってるキーワードに引っかかる研究会には行くんですけど、知らなかった人、知らないキーワードの研究会にはなかなか引っかからないんですね。対面で行っていたときはレセプションでたまたま会った人と繋がりができたりとか、ちょっと時間が空いたからたまたま見に行った分科会が面白かったみたいな、偶然の出会いがないっていうのはもしかしたら大きな損失かもしれないなとは思いますね。両方組み合わせていけたら今後いいのかなと思います。

貴重なお話をたくさんいただきありがとうございました! 「図書館という物質的な場所にこだわらず、図書館という”概念”を広く利用していく」という言葉が印象に残りました。自分のその時の状況に合わせて、図書館をさらに活用していきたいなと思います。 

紹介する書籍

「民族浄化」を裁く : 旧ユーゴ戦犯法廷の現場から/多谷千香子著

法律時報/末広研究所 

復讐と赦しのあいだ : ジェノサイドと大規模暴力の後で歴史と向き合う/ マーサ・ミノウ著 ; 荒木教夫, 駒村圭吾訳

暴力の人類史 / スティーブン・ピンカー著 ; 幾島幸子, 塩原通緒訳

ニュルンベルク合流 : 「ジェノサイド」と「人道に対する罪」の起源 / フィリップ・サンズ著 ; 園部哲訳

ジェノサイド / 高野和明著