井上 雅彦 Masahiko Inoue
教職研究科 教授
【研究テーマ】 ・ディベートを用いた読みの学習指導 ・伝え合いを重視した国語科カリキュラムの研究 ・教員養成カリキュラムの研究 | |
【専門分野】 日本文学, 教育心理学, 教育学, 教科教育学 |
インタビュー:学生ライブラリースタッフ 大原・天井・出水
- 先生の研究分野について詳しく教えてください。
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国語科教育という分野です。国語という教科の指導方法について研究をしています。国語科教育といっても幅広いのですが、特に他者との伝え合い、学びあいをどのように成立させるかを中心に研究しています。
- 先生がその研究分野に進んだきっかけは何ですか。
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高校時代の国語の授業をつまらなく感じていました。教師が1つの文学作品について解釈を語り、生徒たちが一生懸命板書を写します。そして中間考査、期末考査に先生が言った解釈を覚えて書くという授業でした。これでは国語の力がつくはずがありません。国語の教師になろうとした時に、そんな授業は絶対にしたくないと思ったのです。
私は中学、高校の教師になりましたが、生徒同士が関り合い、交流する授業をすれば、生徒が生き生きするのではないかと考え、ディベートに注目し、ディベートで文学を読むことを研究しました。全国のたくさんの高校生が毎日退屈な授業を我慢して受けているかと思うと、とても悲劇的なことだと考えていました。「伝え合いを重視して国語の力をつけるにはどのようにすればよいのか」という自分の研究を、大学教員として教職課程をとる学生たちに伝えれば、きっとたくさんの子どもに影響を与えると思って大学教員を目指しました。多くの優秀な国語教員を育て、多くの日本の子どもたちが言葉の力をきちんと身につける国語の授業を受けられることを望んでいます。
- 先生は中学、高校教員のときどのような授業をしていたのですか。
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ディベート、パネルディスカッションなどの言語活動を重視した授業を展開し、それをポートフォリオ評価などで評価していました。ポートフォリオ評価は3年間の生徒の学習成果物や、返却物を全てノートやファイルに綴じさせていました。
- 先生が影響を受けた本はありますか。
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高野悦子さんの『二十歳の原点』という本に影響を受けました。高野悦子さんは立命館大学の学生で、20歳で自殺してしまいました。彼女が自殺するまでに綴った日記が、この作品です。私が学生の頃はまだ学生運動の名残があり、自分が学生運動をどう受け入れ、どういう学生生活を送るのかを考えざるを得ない時代でした。私が立命館大学に入学した時に、同じ大学に通っていた彼女が学生運動をどう受け止めたのかを日記を読んで考えました。ここまで政治や自分の生き方に真摯に向かっている立命館の学生がいることが非常に衝撃的で、自分も高野悦子さんに負けないような生活をしたいと心したきっかけとなったのがこの本です。立命館の学生なら先輩がどんな風に70年安保の時代を受け止め、悩み、学生生活を送っていたのか、そして死に至ってしまったのかということを知ってはどうでしょうか。
- 先生は学生時代にどのように図書館を利用していましたか。
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皆さんは前の図書館を知っていますか。今は広場になっていますが、当時の図書館は、とても暗い感じで、入りづらい雰囲気でした。どこにどんな本があるかもわからないという印象を受けました。
私は日本文学専攻だったので、卒論でプロレタリア文学を扱っていました。しかし、一般的にプロレタリア文学の本はあまり市販されていなかったので、卒論を書くときには、図書館にずいぶんお世話になりました。
- 先生は今の立命館大学の図書館にはどのような印象を持たれていますか。
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すごく近代的で雰囲気も明るくなり、まさに「最先端の図書館」になったなと思っています。館内が明るいので、以前の図書館よりも本が探しやすく、また貸出手続もスムーズになったと思います。さらには、ぴあらの設置やパソコンの貸し出しなど、以前の図書館にはなかった施設やサービスの利用も充実して、より足を運びやすくなったのではないかと感じています。
- 先生は立命館大学の学生にどのように図書館を利用してほしいとお考えですか。
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最近あまり本を買わない学生が多いです。できれば本は手元においておくことが望ましいと思うのですが、何かとお金が必要な今の学生には難しかと思います。そういう人でも多くの本に出合えるのが図書館だと思います。
立命館大学の図書館は市販されている本であれば全部そろっているので、学生がいろいろな本に触れることのできる場でしょう。
現代の情報化社会の中では、本当に必要な情報とそうでない情報を見分け、うまく取り入れていかなければならないので、とりあえず借りてみて良かった本だけを自分の手元に置くために買うようにしてはどうでしょうか。情報源としての本に多く出会うことが、思考力を支える基礎力になります。
- 学生たちがこれから勉強する上で大切なことや、何かアドバイス等ありますか。
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将来自分が何になりたいかを明確にすることだと思います。それがあってこそ、勉強や努力ができます。
目標が明確であれば、自分に足りないものや、それに向けてどう努力すべきなのかも見えてきます。そこで、自分がそうなった姿を具体的にイメージすることが大事だと思います。
- では、どうしたら「こうなりたい」という理想像を持てるようになるのでしょうか?
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「情報を集めること」です。自分の身近で働いている人しか知らなければ、選択肢はそれだけになってしまいます。ところが、世界にはいろいろな仕事があり、色々な人が活躍をしていることを知れば、選択肢の幅が広がります。そうすると、自分がこうなりたいと思えるものも増えていくと思います。
- 先生は教員生活の後に、大学院に通い、教授になられていますが、そうした長い期間熱意を持ち続けるコツは何ですか?
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私には、特別な才能や能力があるとは思いませんが、継続する力だけはあると思っており、「続ける」ことは自分の取り柄だと思っています。先ほど答えたように、「自分がどうなりたいのか」を明確にし、それにめがけて地道に少しずつでも進み続けたことで、大学教員になれたのではないかと思っています。
「思い続ければ必ずそれが実現する」ことを信じ、自分の理想をイメージし、そのために毎日進み続けていくことだと思っています。
- 学生におすすめの本はありますか?
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1冊目は岩波文庫編集部が出している『読書という体験』という本です。この本は学者や作家、ジャーナリストなど34名の人物が、自分が読書というものをどのように体験したのか書いた短文を1冊にまとめたものです。本を読む良さや楽しみがどういったものか皆さんに知ってもらえると思います。
2冊目は有名な本で、ちくま文庫から出版されている外山滋比古さんの『思考の整理学』です。この本は名著だと思っています。この本の現代版ともいえる、元東京大学・現スタンフォード大学の苅谷剛彦さんによる『知的複眼思考法』という本もおすすめです。
3冊目は大学生までには読んでおいていただきたい、吉野源三郎さんの『君たちはどう生きるか』です。こちらは小説でも漫画でもどちらでもいいのでぜひ読んでおいてください。
4冊目は将来お金に興味が出てきたら『金持ち父さん貧乏父さん』を読んでみてください。学校ではあまり経済について教えてくれないですが、生きていく上では必要ですので。
最後に福澤諭吉の『学問のすすめ』です。この本は最近ちくま新書から現代語訳が出たので読みやすくなっています。
- 最後に学生へのメッセージをお願いします。
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保護者の方が皆さんをどういった思いで4年間大学に通わせているのかを考えてみてほしいです。私の子供も大学生ですが、親の思いがわかっているのかと思うことが多々あります。子どもを4年間大学に通わせるのは大変です。それでも子どもを親が大学に行かせるのはなぜなのか、親の愛情や期待について考えてもらえたら有意義な学生生活になると思います。精いっぱい自分の可能性を伸ばす4年間にしてください。
先生、ありがとうございました。