「第90回:栄養学と向き合うーコロナ禍を乗り越えたいまー」

藤田 聡 Fujita Satoshi

スポーツ健康科学部 教授

【研究テーマ】
・加齢に伴う骨格筋量減少(サルコペニア)のメカニズム解明
・運動刺激や栄養摂取による骨格筋肥大のメカニズム解明
【専門分野】
スポーツ科学, 応用健康科学, 分子生物学 (キーワード:筋収縮、栄養摂取、運動、筋タンパク合成、サルコペニア、インスリン抵抗性、タンパク質代謝、アミノ酸、サプリメント、加齢、シグナル伝達)
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インタビュー:学生ライブラリースタッフ 宮本、山下

先生の研究テーマや研究分野について教えてください。

 主に運動生理学を研究分野としております。運動を通して身体がどのように変化するのか、また栄養がどのように運動の効果を変化させるのか、といったことについて主に研究しております。

先生が運動生理学を専攻したきっかけを教えてください。

 僕自身は元々AT(アスレティックトレーナー)について学びたいと思って海外の大学に在籍していたのですが、結構長時間の実習が多くて、ちょっと僕が思っていたイメージと違ったんですよね。同時期にテニスをやっていて、選手のパフォーマンスなどを高めるために栄養について学びたいと思いました。ちょうどある授業の先生が栄養に詳しくて、そこから運動生理学を本格的に学ぼうと決意しました。

今後需要が高まりそうな栄養素はありますか?また、その栄養素を摂取するためにおすすめの食物はありますか?

 やっぱりタンパク質の需要がもっと高まると思いますね。僕自身、高齢者の栄養について色々と研究を行っているのですが、高齢者の方って、どうしても食事がワンパターンになってしまう傾向があるんですよね。タンパク質って基本的には朝・昼・晩と満遍なく摂取する必要があるのですが、特に朝食時のタンパク質が皆さん足りていないんですよね。やっぱり何をするにも性質上タンパク質は欠かせないし、間食とかでタンパク質が多い物を摂取したりすると満腹感が持続しやすい、といった効果もあるので、タンパク質の重要性はまだまだ無視できないですね。ちなみにおすすめの食べものに関してですが、個人的にはギリシャヨーグルトをおすすめします。ヨーグルトは乳製品で、かつ卵のように調理がある程度必要なものと違って、調理が必要無いので、高齢者の方でも気軽にタンパク質を摂取できます。ギリシャヨーグルト(今回紹介していただいたのは明治のTANPACT)は、ヨーグルトの中でも低脂質高タンパク質なので、是非摂取していただきたいですね。

先生は主に高齢者に対して運動介入を行っていると思われるのですが、コロナ禍を通して運動をしなくなった人が増えているという背景も踏まえ、運動をしていない人に対して運動プログラムを作成する上で、どのような点が重要であると考えますか?また、先生が重要だと考える点に基づいた有効的なエクササイズがあれば、是非お聞きしたいです。

 まず、高齢者の方々がコロナ禍で運動しなくなった一番の原因としては、やっぱり感染を恐れているんですよね。なので、あんまり外に出てジムにいったり、ウォーキングとかしたくない、っていう人が結構増えちゃってたんですよね。じゃあこれを解決するためにどうしたかというと、①家で出来るような運動の実施 ②指導者がいるような環境づくり、この2点を主な対策方法として施行しました。基本的には、オンラインで開催し、その中で指導者を1、2名配置して、実際に運動をやってるというような感覚を高めることに努めましたね。ただ、運動を通して身体を鍛えるには、やっぱりある程度の負荷が必要なので、そこはゴムバンドを使うなどして、負荷向上を考えました。実際この取り組み自体はある程度効果はあったのですが、コロナ禍が終わった今でも全体的な活動量は少ないままなんですよね。リモートワークが浸透したのが大きな原因ですが、活動量がこのように下がるだけでも病気の進行に繋がってしまうので、活動量の減少は非常に大きな問題と言えますね。そんな中でおすすめしたいのが、“Habit-Stacking(ハビットスタッキング)”ですね。毎日皆さん色々な習慣(歯を磨くとか)があると思うのですが、その習慣をしながら(あるいはその習慣をした直後に)、軽めの運動(スクワットとか)を行うことを“Habit-Stacking”と言います。これを習慣づけるだけでも、活動量は大幅に上昇するので是非やってみてください。

運動は大きく、筋力トレーニングと有酸素運動の2つに分けられますが、どちらがより重要であると考えますか?

 僕的には、やっぱり筋力トレーニングが重要だと思いますね。サルコペニアやフレイルなどで問題視される筋力低下は、筋トレで筋力維持することが主な対策となりますし、結構筋トレは無酸素運動だと言われていますが、筋トレした後って使った筋内のエネルギー源を再合成するために酸素をたくさん必要とします。だから、筋トレって割と有酸素運動の側面も含んでいるんですよね。

大学時代にどのように図書館を利用していたのか教えてください。

 学生時代は、僕は本を探すというよりかは、情報を探すために図書館を利用していましたね。僕の時代は、インターネットは全然普及していなかったので、もう自力で情報を1から調べないといけなかったんですよね(笑)。なので、図書館に行って、必死にジャーナルをコピーしてました(笑)。あと、当時は寮に住んでいたのですが、そこがどうも騒がしくてなかなか勉強に集中できなかったので、勉強する場としても活用してましたね。

学生時代に影響を受けた本や学生にお薦めしたい本などがあれば教えてください。

 学生時代は先程も言った通り、情報を集めることに必死だったので、あんまりこれがおすすめっていう本は正直出てこないですね。ただ、今僕が結構読んでいるのは自己啓発本ですね。結構自己啓発本の話をすると、え!?って感じに思われる人が多いのですが、やりきる・習慣化するといったことについて、非常に役立つと感じています。で、これはマイブームなのですが、新幹線の帰りなどで1冊読み切る(全ページ読むわけではない)ことを心掛けています。僕自身、買って満足しちゃうタイプなので、こういう機会を作って読むようにしてますね(笑)。基本的には、1冊から1つでも学べることがあれば十分だと思ってるので、興味のある章とかだけ読んでます。

最近ではSNSや検索サイトなどでどの情報が本当でどの情報が嘘なのか判断しづらい状況が生まれているのですが、情報を得るのにおすすめの媒体はありますか?

 個人的には新聞が結構おすすめできますね。ある程度査読されていますので。SNSなどは査読がされてないし情報源が分からないことも多く、どうしても主観が入ってしまいがちです。勿論、論文や引用付きの専門書なども査読はされていますので、そちらもおすすめです。

普段先生は研究等で、どういったデータやサイトを参考にしていますか?

 僕は、厚生労働省のデータを度々参考にさせてもらってますね。日本人の食事摂取基準とかはエビデンスに基づいて製作されているので、信憑性も十分に確保されています。流石に一部に特化したデータと比べたら特化性はないかもしれませんが、いわゆるガイドライン的な役割は厚生労働省のデータで十分果たせると思います。

スポーツ・健康について勉強している中で、情報量が多すぎて、どれが自分にとって有益であるのか判断しづらいのですが、何か良い方法はございますか?(主に論文について)

 単純にキーワード検索するよりも、chatGPTなどのAIを活用して情報を検索・整理する方法も個人的にはおすすめですかね。最近結構使用しているのですが、調べ方を工夫すると、論文付きで回答してくれるんですよね。AIと言えどもそこで紹介された論文は、AIが莫大な情報の中から選んだものなので、ある程度の有用性はありますね(ただ、間違った回答をすることもあるので、100%信頼はできない)。AIのおすすめを参考にして自主的に情報を調べていく、というような手順でも全然いいと思います。ただ、AIの進化を僕は正直危惧していますね。だからAIを使用、今後に対応できるようにしているというのもあるのですが。

先生は海外に長期間滞在していたと思うのですが、海外生活の中で特に何が大事だと考えますか?

 そうですね、18年間アメリカにいたこともあり、そこまで多くの国を経験している訳ではないのですが、異文化に触れるという経験が、海外生活の中で特に大事だと思いますね。英語の能力があることも勿論大事ですが、それ以上に文化を直接経験する・雰囲気を肌でつかむといったことの方が、海外では役に立ちます。なので、在学中に1度でもいいので海外に行って、異文化に触れる経験を体感することを僕としては勧めたいです。

日本はアメリカと比べ健康分野の発展が遅れていると聞きますが、実際のところどうなのでしょうか?

 少なくとも、一般の方の運動習慣の獲得に関わる情報量において日本はアメリカと比べトレンドが一遅れしていると言わざるを得ませんね。僕がアメリカにいた頃ですでに、ジムに行くことが一般的な風習になってたし、一般の人でもある程度のサプリメントに関する知識がありましたが、日本はそのトレンドが今来ているような雰囲気になっています。ただ、健康意識という意味では、日本の方が優れていると個人的には考えますね。アメリカってどうしても高カロリーなジャンクフードが多いせいで、肥満になる人が非常に多いんです。日本はその点、比較的バランスの良い食文化が成立しているので、そういった意味では、日本とアメリカは割と対等な位置にいると言えますね。ちなみにアメリカで健康に関する研究が多いのは、研究する必要のある人(肥満など)が多いのも一つの理由ですね。

今後の研究予定などがございましたら、是非お聞きしたいです。

 ベースとしては、「なぜ筋肉が大きくなるのか」というメカニズムを追究したいですね。この研究も自分の研究室だけじゃ中々難しいので、イギリスの研究室に行って一緒に研究したりしています。また、正しい情報を発信する、ということにも注力していきたいですね。実際その啓蒙活動として、健康経営に関する会社を作りまして、色々と活動に取り組んでいます。今は企業と共同して活動に取り組んでいますので、興味のある方がいれば僕に声かけてください(笑)。

最後に学生へのメッセージをお願いいたします。

 図書館関連のメッセージとしましては、興味のある本を見つけたら一冊全てを読む必要はないので、本当に読みたい部分を事前に目次でチェックしてから読むようにしてください。また、学生生活などに関しましては、目標設定を明確にするようにしてください。自分は○○がしたいから○○する必要がある、というように徐々にブレイクダウンしていくことが目標設定においては大事です。目標設定を明確にすれば、授業や課外活動など毎日の活動の意識向上につながりますので、皆さん頑張って目標設定をした上で毎日の活動に取り組んで下さい。

藤田先生、ありがとうございました。

今回の対談で紹介いただいた書籍

図解眠れなくなるほど面白いたんぱく質の話/藤田聡監修

マインドマップ読書術/トニー・ブザン著

運動しても痩せないのはなぜか: 代謝の最新科学が示す「それでも運動すべき理由」/ハーマン・ポンツァー (著), 小巻 靖子 (翻訳)

最後までやりきる力/スティーブ・レビンソン (著), クリス・クーパー (著)