「第83回:人生という歴史に変化をもたらす」

山崎 有恒 Yamazaki Yuko

文学部 教授

【研究テーマ】
 1.明治時代の行政機構と官僚の研究
 2.近代日本の河川と治水の研究
【専門分野】
 日本史, 政治学, 交通工学・国土計画 (キーワード:近代日本の国土計画と政治, 近代日本治水史, 明治時代の行政機構と官僚)
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インタビュー:学生ライブラリースタッフ 天井・井川

先生の研究テーマや研究分野について教えてください。

 広い意味では、日本近現代史になるのですが、やっていることは多岐にわたりますね。もともとは幕末維新期に、西洋的な政治システムが導入されていく過程の研究が専門でした。ですが、その後、他の仕事にも携わることになりまして、研究が幅広く展開してしまいました。例えば、立命館大学図書館からは西園寺公望や中川小十郎に関する史料の整理を依頼されました。また、COE(Center of Excellence)研究の関係で、歴史都市京都を防災から守るプロジェクトにも参画しました。プロジェクトの一環で京都の災害史を研究するようになり、今では私の専門分野の一つです。さらに、趣味が高じて、競馬史の研究もするようになりました。ですので、私の専門分野は何かと問われると自分でもよく分からなくなってしまいます(笑) 

先生はどうして、日本近代史を専攻しようと思ったのですか? 

 失恋旅行で訪れた長崎で、原爆資料館に行ったことがきっかけです。そこで多くの人が近代兵器によって理不尽に殺戮されていく様子を見て、「失恋で悩んでいるなんて小さい」と思ったわけです。そして、そのような恐ろしい戦争がなぜ起きたのかを研究してみたいと思ったのです。そこでゼミでは昭和史の勉強をしました。ですが、昭和期にはもう戦争に向かって世の中が動き出してしまっていて、もう止めることなんて難しいのですね。そこで原点に立ち返ろうと思って、明治維新期を研究することにしました。

先生は大学時代にどのように図書館を利用されていたのですか? 

 実をいうと、1・2回生の時はほとんど大学図書館を利用していませんでした。大学図書館を利用する必要性を強く感じるようになったのは、自分が専門分野と向き合うようになった3回生の時からです。大学図書館には専門的な史資料がたくさんあって、それは一般の図書館にないメリットだと思いました。日本の近現代史を生きた人々の史料を読んでいると、そこに出てくる人の思いが伝わってきて、時空を超えた対話をしているような心境になりました。 

ありがとうございます。それでは、学生時代に影響を受けた本を教えてください。

  面白いなと思った本は、意外に思われるかもしれませんが、永井路子さんの書かれた『つわものの賦』という小説です。鎌倉時代の政治史を描いたものなのですが、多くの史料を駆使して書かれており、それらを素直に受け取るのではなく、「この史料にこう記述されているということは、本当はこうだったんじゃないか」というふうに裏読みし、様々な角度から分析することで、真実を浮かび上がらせていくのですね。これを読んで、史料を多角的に解釈、分析していく歴史学って面白い!と思うようになり、日本史学専攻に行くことを選択したのです。私の原点のような本ですし、史料を読む面白さを教えてくれた、大切な一書ですね。 

 ちなみにその『つわものの賦』は、何度も繰り返して読んだために、ページが割れて、真っ黒になりました。今から八年前くらい前に、永井路子さんが立命館大学に講演に来られたことがあり、そのあとの懇親会で、「実は先生の本で僕は研究者になろうと思ったんです」と言って、ボロボロの本を見せましたら、「こんなふうになるまで読んでくれたんですね、嬉しいです。」とお言葉をいただき、サインまで頂きました。嬉しかったなあ。 

 また、大学になって図書館で出会った本の中では、これは史料集なんですが、松方正義の財政論策集に感銘を受けました。財源もないなかで、松方正義は、これまでの経済の膿とか歪みとかを徹底的に取り去りながら、あらゆる可能性を探って少しでも収入が増えるように、そして少しでも支出を抑えられるように、必死の努力をして経済を立て直していくのですが、史料を読めば読むほど、その状況が過酷で地獄のようだということが見えてきて、そこに1人の人間がここまで人事を尽くして、立ち向かうことができるのかと、涙が流れるくらいに感動しました。 

学生のみなさんと図書館の利用について教えてください。 

 今1回生の研究入門を担当しています。参考文献欄の7割がネットの引用です。ネットの情報自体は悪くはないのですが、何でそういう情報になるのかという裏の部分は、本を読まないとわかりません。表に流布している情報を深く掘り下げて分析したところに真実があるのですが、それに出会わないまま、表のネット情報に依拠してしまうのはもったいないですし、危ないです。常に原典にあたるべきだと思います。 

 ここで思い出深い学生を紹介します。以前うちにいたゼミ生なんですが、3回生から4回生前半まで研究が全然うまくいっておらず、「ちゃんと卒業論文を書けるかなあ」と心配していました。夏に彼が「この研究がしたい」と相談に来たのですが、持ってきたテーマが難しく、数十年間くらい結果が変わっていない研究だったので、もう変わらないんじゃないかなーとどこかで思いながらも、「とにかく図書館に行け!」と背中を押したんです。夏休み明け、ゼミの報告会で、その彼の報告を聞いて、みんな驚きました。大胆な仮説、そしてそれを完璧に裏付ける証拠を図書館で見つけていたんですよ。プロの研究者もひっくり返るような発見でした。 

  彼の例のように、図書館には無限の可能性があります。困ったらぜひ図書館に行って片っ端から史料を見てみると、ヒントや突破口になるものがあるはずです。それらを引き出せるかどうかは皆さん次第ですが、あきらめずに図書館に籠って道を切り開いてもらえればと思います。 

先生がコロナ禍で新しく始められたことはありますか? 

 「ゆうこうちゃんねる」という名前のYouTubeチャンネルを始めました。< ゆうこうちゃんねる – YouTube >インタビューを読まれた方は、ぜひご覧いただいて、もし面白かったらチャンネル登録をしていただけると嬉しいです。YouTubeチャンネルを作ることはコロナ以前から考えていました。本学のある卒業生とよく話していたんですが、歴史を面白く脚色したドラマとかはいっぱいあるけれど、「歴史学を学ぶことの面白さを世の中に広く伝えるもの」はないなあと。コロナで大学が休学になって、授業も全部オンラインでやらなければいけなくなったので、じゃあもうこの機会にYouTubeを本格的に始めようということになりました。 

 私が考える新しいことに取り組む秘訣が1つあるとすれば、「いつか死ぬ」ということです。人間って意外とあっさり死んじゃうんですよね。人生は短いです。だから、生きている間いろいろなことをやった方が楽しいと思うのです。実際YouTubeも始めてみたら意外と面白くて。今も割とコンスタントに動画を送り続けているので、皆さんもぜひ見てくださいね(笑) 

先生の研究室は、「喫茶山崎」と称されるくらいに、いろんな学生が来るイメージがあります。先生のように人と上手にコミュニケーションをとるコツなどがありましたら、教えてください。 

 実は私は高校生の時まで、コミュ障で、人と話すのがすごく苦手でした。特に中学高校が男子校だったこともあって、女性と話をするのが苦手でした。これではまずい、何とかして自分を変えたいと思い、話し上手の先輩に相談したところ、「じゃあ1日1回、誰かを笑わせてみろ!」と言われたのですね。「よし!」と思ったものの、どうやって人を笑わせたらよいのかってわからないですよね。そこで、私は、世の中の人がどのように笑っているのかを研究することにしました。これを大学の1回生や2回生の時にずっと続けてみた結果、普通に女性と話をすることができるようになりました。(もしかしたら、内心でドキドキしているのかもしれないけど…(笑))。 

 皆さんの中には、20年近くの人生を経て、自分はもう完成してしまっていて、いまさら変わることなんてできないと思っていらっしゃる方もいると思います。ですが、そんなことは無いのです。20歳からでも変わろうと思えばいくらでも変わることができるし、変わることで人生はとても豊かになると思います。なので大学時代には自分が苦手だと思うことにぜひ正面から向き合ってください。そうやって向き合って努力した日々は、きっと大切な思い出になると思いますよ。 

先生、ありがとうございました。

紹介する書籍

つわものの賦/ 永井路子

松方伯財政論策集 / 松方峰雄, 兵藤徹